55、初旅行・2


 空港に着き、二人は並んで歩く。とは言え、どこで誰と会うかわからないので、 二人はマスクの代わりに帽子を深くかぶった。
 電車からタクシーに乗り継ぎ、リョウの実家へ向かう。
 若葉はまだ記憶に新しい町並みを眺めていた。

「観光、ですか?」
 タクシー運転手がバックミラー越しに問う。
「いえ、実家がこっちなんです」
「そうでしたかー。幸せそうなお二人だから新婚旅行かなと思ってしまいました」
 運転手は優しく笑った。
 若葉は「兄妹に見られなくてよかった」とリョウに小さく言い、 新婚旅行のカップルに見てもらえて嬉しかった。 子どもっぽくならないように、今回はいつも以上に母子で気を付けてコーディネートをしてきた。

「次の信号を左折して少し行った所で停めてください」
 リョウの指示でタクシーは交差点を曲がり、彼の実家でもあるお店を横切り停車した。
 修学旅行の時はもちろんお店の入り口から入ったが、今回はその裏の家の門をくぐる。
(どうしよう。本当にいいのかな)
 若葉はここまで来て、自分なんかが付いて来てよかったのか不安になってきた。
 立ち止まっている若葉にリョウは振り向き「大丈夫だよ」と背中に手を回し押した。

 リョウがインターフォンを押すと、家の中から「はーい」という声がし玄関ドアが開いた。 「お帰りなさい」と一番最初に出迎えはリョウの義姉だった。
「若葉ちゃんもお久しぶり。よく来てくれたわね」
 優しい笑顔で言ってもらえ、若葉はほっと一安心した。
「お邪魔します」
「リョウにいちゃ〜ん!」
 奥から元気な声とダダダダという足音が近づいてきた。
「理沙(りさ)、おいで」
 リョウはしゃがみ、女の子は彼に飛びついた。
 若葉はそんな二人を微笑ましく見つめる。
「兄貴の子だよ」
 リョウは理沙を抱き上げ、若葉に紹介した。
 若葉が修学旅行で来た時は、理沙は保育園に行っていたため、初対面だ。
「りさです。五さいです」
 自己紹介の仕方を母親に教えてもらったのか、元気よくハキハキと言う。
「若葉です。よろしくね」
「うん! あのね、あっちにね、おもちゃがね……」
 理沙は若葉の手を引っ張りながら家の奥へと進む。
 リビング前で、リョウの両親、兄と目が合った若葉は「お邪魔します」と頭を下げると、 「いらっしゃい」「遠い所、よく来たね」など家族みんなが声をかけた。
 今日は店は休みで、リョウの母と義姉がお茶とお菓子を運んできた。
「三日間お世話になります」
 学校で習った作法を思い出して、体を曲げる角度を意識してお辞儀をした。
「まぁ、そう緊張しないで。お茶どうぞ」
 リョウの父に言われ、彼の隣に座る。
「ありがとうございます」
 若葉は緊張したまま頭を下げた。

 リョウの家族に会うのは一応二度目なのに、若葉はどうしていいのかわからずにいた。
(あっそうだ。お土産渡さなくちゃ。こういう時、なんて言うんだっけ……)
 緊張で思い出せず「あの、これ……」と口籠りながら菓子折りを差し出した。
「どうもありがとう」
 リョウの母が「このお店、テレビで見たことあるわ!」と嬉しそうに受け取る。
 それから空港は混んでたとか、自分達の住む所が北海道と比べて蒸し暑いとか、そんな会話をした。

「じゃあ、来てすぐだけど、俺ら出かけてくるから」
 荷物を部屋に運んだリョウは家族にそう伝え、若葉はただその後ろをついて歩いた。
 リョウの兄から車を借りて、一日目に予定していた場所へと向かう。
「ごめんな。あんなに緊張させるなんて思わなかった。もっと楽にしてよかったのに」
 リョウは申し訳なさそうに若葉に謝る。
「そんなことないよ。大丈夫」
 若葉は口ではそう言ったものの、本当は全然大丈夫ではなかった。


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2006-07-14
2012-07-05 大幅修正
2013-09-20 改稿







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