10 誕生日の夜


17歳になった日の夜。
私は寝静まった頃、一人縁側で月を見上げていた。
眠れない夜は、こうやって過ごす。

おじいちゃんは
『もう空手はやらなくていい』
って言ったけど、あれは本心なのかな。
私が空手をやめたがってるって思ってたのかな。
確かにやめたいと思った時もあった。
でも嫌いじゃない。
そう。ここで前、あっちゃんが言ってくれた
『空手は嫌いじゃないだろ?』
その通りだった。


お母さんは空手をどうしてやめたのかな。
やめて自分の好きなことをしたのかな。
そんなお母さんを見て、おじいちゃんはどう思ってたのかな…。
寂しくなかったのかな…。
誰も答えてくれない質問を月に投げかけた。


「やっぱりここにいたんだ」
振り返ると、あっちゃんがいた。
「階段を下りる音がしたから」

「ごめん。起こしちゃった?」
「ううん。俺も眠れなかったし」

私達はそんな会話を少し交わして、しばらく沈黙が流れた。
どうやって話をしたらいいのか分からなかった。
そして初めに口を開いたのは、あっちゃんの方だった。

「これ。誕生日プレゼント」
「えっ!?」

ポンとプレゼントは私の手に乗った。

昨日あんなふうに怒らせてしまったのに、あっちゃんが普通に話してくれることが嬉しかった。
それから、私の誕生日を誰に聞いたのかわからないけど
プレゼントを用意してくれたことが、もっと嬉しかった。

「たいしたもんじゃないけど」
「ありがとう。開けていい?」
「どうぞ」

「可愛い…」
ネックレスだ。
ハートにラインストーンがいっぱい付いた可愛いネックレス。
「いいの?」
「いいの?って…。いいよ」
あっちゃんはクスッと笑った。
嬉しい。
すごく嬉しい…。

「そう言えば、試験の結果っていつ出んの?」
「あ…もうすぐ空手の試験だね。だいたい次の日くらいに電話がかかってくるよ」
「そっか。じゃあ、その結果が出る日、話があるから俺に時間くれないかな」
「うん、いいけど…」
「じゃ、そういうことで。おやすみ」

そう言ってあっちゃんは立ち上がった。

「あのっ、その試験の次の日…。花火…花火大会があるの。
 もしよかったらでいいんだけど、一緒に行かない?」
「いいよ」
「よかったぁ。じゃ…おやすみ」
「おやすみ。あ、それからおめでとう」
「あ・ありがとう」

あっちゃんは私に笑いかけ階段を上がっていった。

笑うとキリッっとした目が少し下がるんだ。
ああ、やっぱり好きだなぁ…。

“試験の次の日”という言葉を聞いて、駅に貼ってあった
毎年行われる花火大会を思い出して、思わず誘ってしまった。
ポスターを見るたびに、今年は あっちゃんと行きたいと思ってた。

決めた。
花火大会の日に言おう。
あっちゃんに「好き」ってことを。

月明かりに照らされる、このネックレスを見つめながら思った。


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2006-07-21



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