3 彼はどんな人?


高倉さんが我が家に来た日から3週間程過ぎた。

あの日、妹の佑莉と楽しそうに話をしていた高倉さんは、まるで何もなかったかのように
お客様との打ち合わせ以外は、またいつもの暗い雰囲気に戻っていた。

何をしていても、あの人のことばかり考えてしまう。
気になって、気になってしょうがない。

渡辺さんなら知ってるかな…。
ふと聞いてみた。

「高倉さんって本当はどんな人なんですか?」
「何? 急に」
「あっ…えっと…。
 だって冷たそうな雰囲気なのに、あんなに温かい家を造ることができるなんて…」

何て言ったらいいのか、言葉が詰まってしまう。

「…高倉は…いいやつだよ。昔はあんなんじゃなかったんだ…。
 あることがきっかけで、ああいう風に変わってしまった」
「あることがきっかけ?」

教えてもらいたかったけれど、渡辺さんは自分からは教えられないと言った。
高倉さんの過去に何があったんだろう。
ますます気になった。


会社に戻り、打ち合わせで決まったクロスの品番を確認していると
パソコンに一通のメールが届いていた。

『先日のお礼がしたいのですが、今度食事でもいかがですか?
 日程は後日連絡します。高倉』

えっ。うそ…。
あの高倉さんからお誘いがあるなんて思ってもいなかった。

ちらりとメールの送り主の方に目をやると、メールを送った様子もない顔をして仕事をしていた。

お礼と言いつつ、食事に誘うってことは、私に気があるってこと?
あ…でも、食事くらい別に深い意味ないよね。
うん。そうだよ。
意味なんてない。
だけど期待したい。
って、私、何を期待したいの…。
急にドキドキしてきた胸と震える手を、必死に抑えた。


一つ気がかりなのは、あの日、佑莉と高倉さんが初対面なのに打ち解けていたことだ。
もしかしてお互い一目ぼれしたとか…?
佑莉の気持ちをさりげなく聞いてみようと、仕事の休みの日に私はまたカフェへ行った。

そしてお店の前を通ると、ガラス窓から佑莉を見つけた。
佑莉はテーブル席に座っていた。
お店には入らず、何となく一緒に座っている相手を見ると、高倉さんだった。

自然と足は店内に入ることなく、来た道を戻っていた。

別に何とも思わない。
佑莉が高倉さんを好きで、高倉さんも佑莉が好きで。
それならそれでいい。
だけど何故だろう。
涙が出てくるのは…。

二人の楽しそうに話してた顔が鮮明に妬き付いて離れなかった。

 *

翌日は、高倉さんと二人で打ち合わせに行かないといけなかった。
仕事とは言え、気が重い。
私は高倉さんの運転する車の助手席で、ずっと窓の外の方を向いていた。

「桐原さん、この間メールした食事の件だけど…」
「あ…、そのことでしたら結構です。仕事ですから。お礼とか必要ありません」
「でも…」

だって行けるわけがないよ。
自分の妹と、自分の好きな人が仲良く一緒にいた所を見てしまったんだから。

あ。今、私、高倉さんを“好きな人”と心の中で言ってしまった。

渋滞もなく、スムーズに走っていた車は急にスピードが落ち、そして路肩で停車した。

どうしたのかな?と高倉さんの方を向くと
「大事な話があるんだ」
そう一言、強く言った。

「大事な話…ですか…」

聞くのが怖い。
けれど、そんな風に言われたら断ることができなくて、「はい」と返事せざるを得なかった。

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2007-02-02


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