続編・永遠(とわ)に… 3


――出張…?

翌朝、朝礼で課長が言った。
今日から係長が行くはずだった大阪出張が
係長の身内の不幸で、急遽大雅が代わりに行くことになったそう。

こういう時に限って、大雅は忙しかったり、出張に行ってしまったり。
なんかな…。
すれ違いばかりだ…。


「百香ちゃん、ちゃんと主任と話しした?」
食堂へ向かいながら明日美さんが私に尋ねてきた。
「…はい。もう大丈夫です。ご心配をおかけしました」
思わず、明日美さんに嘘をついてしまった。
本当は話しすらしてない。
実は屋上で見たことを、私は明日美さんには言っていなかった。
これ以上、明日美さんに心配かけるわけにもいかなかった。

「そう。それなら、良かった。
 時間って解決してくれる時もあるんだけど、逆に引き離してしまう場合があるからね。
 って二人ならそんな心配いらないか。とにかく主任が出張に行く前に誤解が解けてよかった」

時間が二人を引き離す…。
明日美さんの言葉を聞いて、このままじゃいけないと思った。

夜、電話してもいいかな。
地方へ出張すると、その支店に配属された同期の人や転勤した人と
飲みに行くことがあるって聞いたことがあるし、どうしよう…。

とりあえず、夜電話してもいいか昼休み中にメールしようと携帯を見ると
大雅からのメールが届いていた。

『今、大阪に向かう新幹線の中です。
 課長から聞いただろうけど、急に出張になってさ。
 昨日でプロジェクトも落ち着いたから
 久しぶりに今夜百香と飯でも行こうと思ったのに。
 ついてないな。
 金曜日の夕方、東京に戻るよ。
 百香の作ったロールキャベツが久しぶりに食べたい』

そのメールを読んで、思わず笑顔がこぼれてしまった。
私はどんなことがあっても、彼を信じたい。


 *


金曜日。
定時ですぐ上がり、急いで買い物をして彼のマンションに向かい合鍵で部屋に入った。
ベランダの掃き出し窓を開けると秋の心地よい風がふわっと感じた。
時間がないから圧力鍋でロールキャベツを煮込み、お風呂の準備も先にした。

私はこの時間が好きだ。
帰って来る場所は彼の家だけど、自分の元へ帰って来てくれるような気がして愛しくてたまらない。
ランチョンマットを敷き、食器を並べ、冷蔵庫に入れた買って来たばかりのワインの温度を手で確かめる。
ワイングラスも用意して、少し待っているとインターフォンがなった。

帰ってきた。
ガチャと玄関が開き、
「ただいま」
出迎えた私を嬉しそうに抱きしめてくれた。
「お帰りなさい。お疲れ様」
大雅の胸にうずめた。
私が一番安心できる時…。
ここ数日の不安も消えてなくなりそうな気がした。

「あー。なんか久しぶりだ。この感触」
ぎゅうっときつく抱きしめられたと思ったら唇が重なった。
次第にそのキスは深くなり、いつの間にか廊下の壁に押し付けられた。
「んっ…。ご・ご飯できてるよ…」
唇を離してそう言うと、
「うん。腹減った」
と頭をポンポンとされて、着替えるために脱衣所へ入ってしまった。
ちょっと脱力感…。

その間に、お皿に料理を盛って並べた。
「いい匂い」
Tシャツとハーフパンツ姿になった彼が指定席に座った。

「ワインとビール、どっちがいい?」
「ワインもあるの? せっかくだからワインがいいな」

冷蔵庫からワインを出して、大雅にコルクを抜いてもらいグラスに注いだ。

「乾杯」
「お疲れ様でした」

「うん。美味い」
いつものように変わらない彼。
舞子さんの事なんて何もなかったかのように話す。

たくさん作った料理はあっという間になくなって、食器を二人で片付けてテレビを少し見た。
「お風呂、沸いてるよ。ホテルのユニットバスじゃ疲れ取れなかったでしょ?」
「ああ。入ってくるよ」

そして大雅がお風呂から上がり、私もすぐお風呂に入った。
お風呂から出て髪を乾かすと、すでにベッドの中にいる彼の横に私ももぐった。

「百香…」
私の名前を愛しそうに呼んでくれる。
当たり前のように腕枕をしてくれる。
大好きで、大好きでたまらない。

キスを交わしながら、彼が私の上に覆い被さった。

「ごめんなさい。今日はダメなの…」
こんな日に限って生理だった。
「あ…。そうか…」
残念そうにポスッとベッドに横たわった。
「ごめんね。がっかりした?」
「ううん、がっかりだなんて思わないよ。したかったけどね…。今日はこうしていよう」
そう言って再び腕枕をし直してくれた。
私もしたいよ。
肌で彼のぬくもりと、愛されてることを実感したかった。
そして私を感じてほしかった。
なのに。
「ごめんね…」
「なんで? 別にこういうこと初めてじゃないでしょ?
 百香、最近元気ないな…。どうかした?」
「ううん…」

本当は舞子さんとの事が聞きたかった。
信じたいけど、やっぱり聞きたいのが本音で。
でも聞いてしまったら、全てが終わってしまうような気がした。
だったらこのまま知らないフリをしてた方が幸せなのかな…。
だけど彼の腕の中にいながら、ずっとあのことを気にしたままでいいの?
それで幸せでいられるの?
大雅は幸せなの?

私は誰と幸せになりたい?
誰を幸せにしたい?
そんなのは決まっている。
世界でたった一人の人。
今私を包んでくれている彼しかいない。

だからこそ、目で見たことを、全てを明らかにさせたい。


「大雅…、一つ訊いてもいい?」
「ん?」
「舞子さんと何かあったの?」
「…百香…?」

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2006-09-10


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