続編・永遠(とわ)に… 5


《大雅サイド》

それから3週間後。
真っ青な空に秋の雲が流れる。
そんな秋晴れの中、俺達は横浜に向かった。

付き合うことになったのは去年のゴールデンウイーク前日で初めてのデートは横浜だった。
横浜は今日が2度目で、初デートに行った場所を思い出しながら歩いた。

夕方になり、港の見える丘公園からオレンジ色の景色を見た。
冷たくなった風が彼女の夕焼け色の髪を揺らす。
「綺麗だね…」
そう言って夕日を見つめる百香の横顔を見て、本当に来て良かったと思った。
日がゆっくりと沈んでいき、空の色が変わってゆく。
特別な会話はなかったけど、二人でこの瞬間を忘れないようにと繋いでいた手を強く握った。
これからいつだって見られるかもしれないけど、
どうか君がこの日を特別な日として覚えていますようにと…。


それから中華街に行き、予約しておいた店に入った。
テーブルに案内され、コースを注文すると、少しずつ運ばれてきた。

「私ね、女のくせに今まで食というものに、そんなに欲がなかったの。
 一人でご飯食べる時は、お腹が膨れればなんでも良かった。
 でも大雅と付き合うようになって、美味しいものを一緒に食べたいって思うようになったんだ。
 だから、ずっと一緒にこうやって美味しいご飯が食べられるといいね」
百香は杏露酒を口に付け、そう言った。
「そうだね」

たぶん、きっと、今夜これから俺が言おうとしていること
彼女も同じ気持ちでいてくれていると確信した。

食事をして、満腹になった体を少し楽にさせるために中華街を再び回って、ホテルに向かった。
フロントでカードキーをもらい、部屋に入ると…。
目の前の窓に映るのは、夜景だった。

「すごーい! 宝石箱をひっくり返したみたいだね」
百香は子供のようにはしゃぎながら、窓に張り付いた。

どこに泊まろうか探していた時、ここのホテルを見つけて
ちょうど希望の日に、ここの部屋が空いていたのだった。

「すごいね!」
「気に入った?」
「うん」
「よかった」

窓に張り付いたままの百香を後ろから抱きしめる。

「本当にすごいね…。綺麗…」
「百香、さっきからスゴイばっかり言ってるよ」

口ではそう言ってからかったけど、本当はすごく嬉しいんだ。
しばらく俺達は、窓の外を眺めた。
まばゆい光がゆらゆらと輝いて、時間を忘れてしまいそうになる。

「風呂、入れてくるよ」
「あ…うん…」

座って見てなって言い残し、百香に窓際にあるカウチに腰を下ろさせた。




《百香サイド》


バスルームから水の流れる音がすると、大雅は戻ってきた。
私の横に腰を下ろすと、また後ろから抱きしめてくれた。

「大雅…。今日はありがとう。でも記念日でもないのに、こんなに贅沢しちゃっていいの?」
「記念日にするからいいんだよ」
「え?」
「…何でもない」

記念日?
横浜記念日とか?
毎年、来ようねとかかな?

こうやって包み込んでくれると安心する。
私の全てをいつもこうやって受け止めてくれる。
これから先、私は大雅にしてあげられるんだろう。
もっともっと私で幸せにしてあげたいよ…。


「さー、風呂行こうか?」
大雅に腕を引っ張られて、バスルームを覗くと…
丸い窓があって、そこからも夜景が見える。
しかも湯船の中はバブルバスにしてくれていた。
まるで映画やドラマに出てきそうなお風呂だった。

「待っててね、すぐ準備するから」
急いで二人分の着替えを取りに行き、それから二人でお湯に浸かった。

「そんなに覗くと外から見られるよ」
「嘘!?」
思わず窓からの夜景を見入ってしまっていた私は大雅に言われて即効で肩まで潜らせた。
「嘘だよ。見えるはずがないって。百香がこっちを向いてくれないから…。
 …おいで」

両手を差し出してくれた元に身体を任せた。

「大雅、好き…」
「俺もだよ…」

泡だらけの体に包まれキスをした。


お風呂から上がり、お肌のお手入れをして髪を乾かして部屋に戻ると
大雅が冷蔵庫からミネラルウォーターを出してくれた。
ありがとうと受け取り、ゴクゴクと飲んでると

「百香、ちょっとここ座って」
カウチをポンポンとした。
なんだろう?
そう思って座ると

「手、出して」
「手?」
よく解らないまま手を差し出すと
「こっち」
出した右手ではなくて、左手を取った。

そしてその薬指にスッと指輪がはめられた。
プラチナのリングに、その上には夜景に負けないくらいキラキラ輝いたダイアモンドが乗っている。
これって……。
大雅の顔を見つめると。

「結婚しよう」

え…?

「初めて会った時から百香しかいないと思った。
 百香がいれば、それだけで幸せなんだ。
 絶対に幸せにするから、だから一緒に生きていこう。そしてずっと隣で笑っていて」

嬉しくて、すぐには声が出なくてコクリと頷いた後
「…はい」
そう返事することしかできず、勝手に涙がポロポロとこぼれ落ちてきた。
ずっとずっとこの日を夢みてたんだ。
どんどんこぼれるその雫を大雅は手で優しく拭ってくれた。



「…でも、どうしてわかったの?」
「何が?」
「このシチュエーション、私の夢だったの」
「あー、これね。言わないほうが夢があるかもしれないけど、
 この指輪を買いに行った日、偶然名取さん(明日美)に会ってね。
 教えてくれたんだ。百香のプロポーズの理想」

そう。
明日美さんが結婚すると聞いた時、プロポーズの話しになった。
それで私のプロポーズの理想を聞かれたんだけど、
私の理想は夜景の綺麗な場所で指輪をプレゼントしてもらうことだった。
実際には王道すぎるプローポーズなのかもしれない。
でも私の夢だった。

「その時、明日美さん“ベタすぎる”って笑ったんだよ。大雅もそう思うでしょ?」
もう泣いてるのか、笑えてくるのか自分でもよく解らず、ただ彼の胸に顔を埋めた。
「最初はね。でも叶えてあげたいと思った。それに俺じゃないとダメなんでしょ? この叶える役目は」
「そんなことまで明日美さん、喋ったの!? 恥ずかしいなぁ…。
 でもね、この夜景は想像以上だったよ」

埋めていた顔を上げると、大雅はスッと立ち上がった。
私も同じように彼の横に立ち、目の前の夜景をもう一度味わう。

「ここまでの夜景は無理だけど、この街に住もうか」
「あ…。もしかして、あのマンションのカタログって…」
「あれ親戚が不動産屋やってて送ってきたんだけど、ここで百香と住めたらいいなと思った」
「うん。私もこの街に大雅と住みたい」


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2006-09-23


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