3 気持ち


〜美登里サイド(浩太の妹)

久しぶりに梓と会った。
彼女が相談したいことがあると、いつもよりちょっと真面目な顔をして…。

私はその話を聞いて、梓には「浩ちゃんには言わないで」って言われたけど、妹として黙っていられなかった。
兄がそんなわけのわからない男だったなんて!

 *

――ガチャ

あ、帰ってきた。
時計の針はもう10時半をまわっていた。
浩ちゃんは最近忙しくて、帰りがこんな時間になってしまうのも珍しくはない。
いつも自分の部屋に閉じこもってしまうけど、今日はリビングで待っていた。

「浩ちゃん、ちょっといい?」
「何?どうした?」
浩ちゃんはネクタイをはずしながら答える。

「あのさ、梓と付き合ってるんだって?」
「ああ。梓から聞いた?」
「うん。だけどさ、何? 梓に彼氏ができるまでって」
「これには色々事情があるわけでして…」

は?色々って何よ。

「浩ちゃん、梓のこと好きで付き合ってるの?それとも遊び?」
「は?」

遊びだったら、私は絶対許さない。たとえ自分の兄でも。

「いいの?梓が他の人好きになっても。
 あの子には口止めされてたけど、会社の憧れてた人に告白されただって。
 梓、その人に取られちゃうかもしれないんだよ」

「…しょうがないだろ。そういう契約だし」

「それじゃ、前の彼女と同じように梓が他の人と結婚しちゃってもいいわけ?
 浩ちゃんはさ、そうやって逃げ道を作ってるんだよ。
 元カノの時みたいに振られて、自分のプライドが傷つけられるのが嫌で、
 だから梓にそうやって言ったんでしょ?」

浩ちゃんは黙っていた。

「情けないねー」
私がそう言ってやると
「お前、うるさいよ」
そう、ムッとした顔で答えた。

「じゃ、うるさいついでに言わせてよ。
 浩ちゃんは梓のこと自分の手で幸せにしてやりたいと思わない?」

「……」

「それが答えだよ。梓のこと幸せにしてあげなよ。男でしょ!?
 梓も浩ちゃんの本当の気持ち聞くの待ってるよ」

バカ兄貴!情けなさすぎ!
はー…。頭にくる!!
私は自分の部屋に戻りバタンと扉を閉めた。

あとは浩ちゃんが梓にどう出るか。


 *


〜梓サイド


梅雨入りをし、毎日雨が降り続く。
そして今日も。

私は会社の前で浩太を待った。
どうしても直接会って話したいことがあったから。

「お疲れさまでした」
「おつかれ」

あっ、浩太だ。

「梓…?」
「お疲れさま」

こんなところで待ってるなんて思わなかっただろうな。
浩太はすごくビックリした顔をした。
もう時間は9時。

「ちょっと話があって…」
「だからって、雨の中ずっとここで待ってたの?」
「うん…」
浩太が私の手を握った。

「こんなに冷たくなって。電話してくれればよかったのに」
「そう思ったんだけど、仕事中は困るでしょ?だから」
「メシは?」
「ううん、まだ」
「じゃ、どっか食べに行こうか。俺も話したいことあるし」

私達はご飯を食べに行った。

「で、梓の話って?」
「今週の土曜日なんだけど、会えるかなと思って」
「あー、土曜日出勤なんだよ。
 しかも終わるのも今日ぐらいか、それより遅くなりそうだから、ちょっと無理かな…。
 日曜日なら大丈夫だけど」
「そっか…」
「なんで?」
「ううん…別に…」

私は“遅くなってもいいなら会おう”っていう言葉を言ってほしかった。

――ピリリリ ピリリリ

浩太の携帯がなった。
「あ、ごめん」

あーあ…。なんで素直に自分の誕生日だって言えないんだろう。

「はい。わかりました。すぐ行きます」


「悪い、トラブル」
「え?」
「会社に戻らないといけなくなった。梓とゆっくり話ししたかったんだけど、ごめんな。
 雨もひどいし、気をつけて帰るんだよ」
「うん…」
「……大丈夫?」
「うん…平気…」

そう言って浩太は私の髪をなで
「いいのに」と断ったのに、テーブルにお金をおいて…そして私をおいて店を出た。

結局、金曜日の夜になっても連絡がこないまま、土曜日になってしまった。

仕事忙しいのかな。
浩太の話って何だったんだろう。

『俺、新しい彼女ができたんだ。だから梓との恋愛ごっこはおしまいね』
そう言うんだろうか…。

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2006-03-03・03-06
2012-07-08 修正


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