続編09、夢・2


 放課後。
 リョウは若葉とゆっくり話がしたかったのに、彼女はどこかへ行ってしまった。

「七瀬、若葉知らない?」
「若葉なら隣のクラスの男の子に呼び出されて渡り廊下に行ったけど」
「サンキュ。渡り廊下ね」
「リョウちゃーん。ちゃんと若葉に告白したほうがいいよ。このままだと誰かに取られちゃうよ。若葉はモテるからね」
(リョウちゃんて……。え、何だって? 告白したほうがいい? 何だソレ。 手作りの弁当を一緒に食べる仲なのに、自分はまだ若葉に云っていなかったのか?  だから屋上のあの時、真っ赤な顔していたのか? 何やってんだ。高校生の俺!)
 リョウは自分の顔を殴りたい気持ちになった。
 渡り廊下へと走る。すると若葉とC組の男子が話をしていた。
「――でもさ、リョウとは付き合ってないんでしょ?」
「うん。私の勝手な片思いなんだけどね。本当にごめんね……」
 若葉は告白を断っている。
 男子が去っていくのを見計らって、リョウは彼女に声をかけた。
「若葉」
「リョウ!?」
 リョウは若葉をたまらなく抱きしめた。
「ごめん。俺まだ言ってなかったんだ」
「もしかして今の聞いていた!? あ、あのね、私……」
「待って、俺から言わせて」
 リョウは若葉の唇に手を当てる。
 教師だったリョウは自分から気持ちを伝えることができなかった。 だから今なら、今の自分なら彼女に素直に告白ができる。若葉からではなく、自分が先に……。

「俺は若葉のことが大好きだよ。だから俺と付き合って下さい」
「は、……は…い…」
 うなずいた若葉の顔を包み、優しく顎を上げると、リョウは彼女の唇にキスを落とした。
 学校……、しかも誰かに見られてもおかしくはない場所で。
 そしてリョウは、若葉が付けていた制服のリボンをはずし、自分のネクタイを付け替えた。 リョウの学校では彼氏がいる女子は、彼氏が着けていたネクタイを締めるという風習がある。いわゆる男除けだ。

「嬉しい! ずっと憧れていたんだ」
 若葉がネクタイを見て、満面の笑みを浮かべる。
「一緒に帰ろうか」
「うん」

 リョウは若葉の手を取り、指を絡ませながら駅に向かう。電車に乗り、若葉の手を握ったまま、少しウトウトした。
 すごく安らかな時間……。ずっとこんな日を夢に見ていたんだ。

「ゆっ、夢……?」

「リョウ? 起きられる?」
「ん……? 若葉?」
「熱はどう? ぐっすり眠ったみたいだから、さっきよりは下がったかな?」
 若葉にそう言われて、熱を出していたことを思い出した。
 若葉のひんやりした手のひらがリョウの額に当てられる。
「だいぶ下がったみたいで良かった。おかゆ作ったの。食べられる?」
「ああ。ありがとう。今、名前で起こしてくれたんだ」
 寝室から出ようとした若葉にそう言うと 「先生が言ったんだよ。今日は仕事の事忘れたいから、頼むから名前で呼んでって」 と恥ずかしそうに言い残し、キッチンへ行ってしまった。

 リョウはここ最近、あまりの忙しさでろくに食事、睡眠をとらず、 おまけに校内で流行っている風邪をもらってしまって、とうとう週末になり熱を出してしまった。
 こんな高熱は久しぶりで、体温計の数字を見て倒れそうになったことは彼女には言っていない。 メールで熱を出したことを伝えると、すぐ看病に来てくれた。
(それにしてもさっきの夢は、夢で良かったと言うか、現実だったら良かったのにと言うか……)


「俺、変な夢見たんだ」
「どんな夢?」
 おかゆを口に運びつつ、リョウは先程見た夢の内容を話した。

「いいなぁ、その夢。先生が生徒か。すごく楽しそう! 私も同じ夢見たいな」
 若葉がそう言い、リョウは共有できたなら、どんなにいいだろうと思った。 好きな彼女に自分から告白をした夢。現実ではできなかったこと。
 それでもこうして二人でいることは、すごく、すごく幸せなことだ。若葉の瞳を見つめて実感した。


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リョウと若葉の「cherish」最後までお読み下さり、ありがとうございました。
一応これで続編も完結です。
またリクエストなどありましたら、お気軽にお申し付け下さいね!


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2006-??・11-18
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