続編08、夢・1


「リョウ、起きて。リョウ?」
「ん……? 若葉?」
「こんな所で寝てちゃダメでしょ!? 四時間目サボっちゃうなんて」
(サボる!?)
 その言葉にリョウはがばっと体を起こした。授業に出るのを忘れていたのか?  それよりもここはどこだ、とリョウはあたりを見渡す。
 初めに目に入ったのがフェンス。そして空が広がり、遠くの建物は小さく見え、 ここが屋上だとようやく気付いた。それよりもどうして自分がここにいるのかがわからなかった。

「もう! 先生怒っていたよ」
 まさか教師の自分が授業をサボるなんてありえない。そもそも、なぜ屋上で寝ていたんだろう。 自分のした行動が思い出せなく、頭をかかえながら、どう言い訳しようか、屋上のドアを開けて階段を下りる。
 若葉といるのはまずいので、彼女を先に行かせようと促すと「リョウ? どうかした?」と顔をのぞきこんでくる。
(ちょっと、お前っ!)
 リョウは急いで若葉の手を引っ張り屋上へ戻った。
「いくら周りに人がいなくても学校で名前呼ぶのはまずいだろ」
「へ? 今更何言ってんの? じゃあ何て呼べばいいの?」
 若葉の方が何を言っているのかよくわからない。いつも名前で呼べと言っても、肌を重ね合う時しか呼ばないくせに。
(……って、あれ、若葉はもう卒業したのでは?)
 学校に遊びに来ているだけと思いきや、彼女は高校の制服を着ている。頭がパニック状態のリョウ。
「とにかく、学校にいる時は普通に“先生”って呼べ」
「プッ! リョウが先生? 何で“先生”って呼ばないといけないの!?  あっ、そうか! リョウは学校の先生になりたいって言っていたもんね。だから練習? 先生ごっこ? しょうがないなぁ」
 若葉は何故かクスクス笑っている。
「お前、頭大丈夫か?」
 リョウは若葉の頬を両手で包み込んだ。
「え……? ちょっと何っ!?」
 若葉は真っ赤な顔をしてリョウを突き飛ばした。
「ねぇ、リョウ。本当に変だよ。大丈夫?って聞きたいのはこっちの方なんだけど」
 真剣な顔でそう言われ、おかしいのは本当は自分の方ではないかと思った。
(あれ? そういえば白衣を着てない)
 いつもリョウは、実験の授業以外でも、学校にいる間はチョークの粉がかかったり、 汚れるのが嫌なので真夏以外はワイシャツの上に白衣を着続けている。 ふと着ているジャケットの袖の色を見ると、明るい紺色だということに気付く。 こんな色のスーツは持っていない。胸元を見ると学校のエンブレムが付いていた。 着ていたジャケットを脱ぎ、それをあらためて確かめる。
「制……服?」
 ジャケットだけではなく、ネクタイもチェックのパンツもすべて制服だ。
「何で俺ら、制服着てんの?」
 リョウは率直に若葉に訊く。
「何でって、ここの学校の生徒だからでしょ? もぉ、ふざけるのはおしまいにしてよね」
(嘘だ……。俺が生徒? しかも若葉は卒業していないのか?)
「とにかく早く教室戻ろうよ。今日は学食じゃなくて、お弁当作ってきたんだよ。お昼休みなくなっちゃうよ」
 若葉はリョウの腕をひっぱり再び屋上の扉を開け、教室へ向かった。
 二人が制服を着ていても、一緒にいても、すれ違う生徒たちは誰も変に思わないようだ。
 そして若葉の後に続き、恐る恐るリョウは教室へ入る。

「リョウ! お前何で授業サボったんだよ。珍しいじゃん」
 そうリョウに声をかけたのは隼人だった。呼び捨てされるとは…… って卒業したはずの隼人までなぜいるのか、さらにわけがわからなくなる。
 若葉は机を向かい合わせにして弁当を二つ置いた。
「ヒュ〜。何? 今日は愛妻弁当? 羨ましいな」
 他の男子もリョウに友達口調だ。そして二人はクラス公認の仲である。

「早く食べよう」
 若葉に言われ、リョウは「お、おう」と椅子に座る。
 自分が生徒になっても、若葉が彼女というのは変わってないようで、そこは少し変な安心感を得る。

「いただきます」
「……どう?」
「うん。美味しいよ」
「よかった」
 彼女のお手製の弁当を食べながら、リョウはふと椎名のことが気になった。
「あのさ、椎名は?」
「愛果と一緒に食堂に行ったけど?」
(やはりそうなのか、もしかして二人とも“生徒”になったのか)
「ごめん。用事思い出した」
 リョウは急いで弁当を食べ、食堂へ向かうと、ちょうど廊下で椎名と愛果に会った。二人も同じように制服を着ている。
「椎名、ちょっと来い!」
「愛果ごめん。先に教室戻っていいよ」
 リョウは椎名を連れ、校舎裏に行った。

「リョウどうした? 血相変えて」
「お前も生徒なのか?」
「は? 授業サボったかと思えば急に変なこと聞いてきて」
「若葉にも変だって言われた。いいか、黙って聞け。本当は俺とお前はここの教師なんだ。 俺は化学、お前は数学の。それで、俺は若葉と、お前は七瀬と内緒で付き合っているんだよ。 しかもあいつら卒業したのになぜか制服着て普通にいるし」
「リョウ、すげー妄想! そんな妄想、どっから沸いてくんの?」
 椎名は腹を抱え大笑いした。リョウは絶対おかしいと思いつつも、椎名に促されながらとりあえず教室へ戻る。
 五時間目の授業は英語で担当は学年主任だ。生徒と混じって、席についているリョウや椎名、 若葉たちの顔を見てもやっぱり何とも思っておらず、普通に授業が進む。
 どうやら過去(?)を覚えているのは自分だけらしい。
 リョウは、まぁいいや。(いいのか?)  こうなったら生徒になったついでに思いっきりスクールライフを楽しもうじゃないか!  と、一人で握り拳を上げた。


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2006-??・11-18
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