続編07、紅茶


 秋の気持ちのよい風が窓から入ってくる、土曜日の午後。

 先週リョウは大学時代の友人の結婚式に出席し、その引き出物に入っていた紅茶セットを出した。
「ここの紅茶飲んでみたかったの」
 有名なブランド名を目にした若葉が嬉しそうにお湯を沸かした。
 ポットとカップは先に温めておく。ポットの湯を一旦捨てて、 適量の茶葉を入れ、沸騰したお湯を勢いよく、でもやけどに気を付けながら注ぐ。 透明のポットは茶葉のジャンピングが見えて面白い。

 リョウは見かけによらず(?)コーヒーよりも紅茶派で、 せっかくいい紅茶をいただいたのだから、いつもよりも一層美味しく淹れてあげたい。
 テレビの前のテーブルに運び、若葉がカップに注ぐと部屋中に紅茶の香りが広がった。
「はい。熱いから気をつけてね」
「ありがと」
 準備してあったDVDを再生する。リョウのマンションで、 いつものように借りてきたDVDを二人でソファに並んで観ることは、すっかり当たり前の時間になった。 それでも二人にとっては大切な時間なのだ。

「そういえば先生ってタバコ吸わないけど、吸っていたことあるの?」
 俳優がタバコに火をつけるシーンを見ながら、若葉が問う。
「教師一年目くらいまでは吸っていたよ。でも昼過ぎると喉が痛くて声がガラガラで出なくなるの。 だからやめた。それに今は校内禁煙だしね」
「そうなんだ」
「若葉はタバコ吸う男が好きなの?」
「ううん。そうじゃないよ」
 でもリョウがタバコを吸う姿も恰好良いのだろう、想像すると実際に見てみたかったな、なんて思う。
「もう吸いたいと思わない?」
「んー、酒飲んでるとたまに欲しくなるかな……。あとたまに口が寂しくなるときも吸いたくなるな」
「口が寂しいときなんてあるの?」
「あるよ。たとえば今とか……」
 若葉に覆いかぶさり、リョウが若葉の唇に重ねる。
「タバコは、若葉がいるからもう欲しいと思わないね」
 そう言い、何度も何度も軽くいたずらについばむ。唇が離れると微笑み合い、 リョウの骨ばった手が若葉の髪に差し込まれた。彼女の白く柔らかい耳朶を食み、舐め上げる。
「くすぐったいよ」
 若葉はクスクスと笑い、リョウから逃れようとするけれど、細い腰を抱き寄せられて、 座っているリョウの膝の上に向かい合う形で乗せられた。
「舌、出して」
 リョウからの要求に、若葉は舌先を少しだけ出した。そして彼は、それをすかさずに吸う。
 紅茶の爽やかな香りが混じり合い、若葉の舌も彼の口腔へ入ってゆく。
 二人はとっくに映画のことは忘れ、キスに夢中になっていた。


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2006-02-??・08-26
2012-07-07 修正
2013-09-20 お題から移動・改稿



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