続編05、水着


 若葉は大学生になり三か月が過ぎた。
 新しい友人もでき、そんな中、女子四名と男子六名で夏休みに海へ遊びに行く案が出たのだ。

 それをリョウに報告すると「海か……」と、少し険のある言い方をした。
 しばらく黙っているリョウに若葉は説明をする。
「大丈夫だよ。男の子たちもいるし、だからと言ってそんな感じでもないし」
 ナンパもされる心配もない。男子は若葉に彼氏がいることも知っているし、 いわゆる誰かが若葉をということもない。とにかく安心してほしかったのだ。

「それでね、今度友達と水着見に行くの」
 言った後、若葉はなんとなく気まずい雰囲気が流れているのに察知し、 ごまかすようにカランカランと水滴のたくさんついたグラスの中をかき混ぜた。
 複数でも、友達だとしても男子を交えて一緒に出かけるっていうのは不愉快かもしれない。 自分だってリョウが女性と出かけるのは正直言って嫌だ。


「どんなの?」
 沈黙の後、リョウは不機嫌そうにぼそっと聞く。
「どんなのって、普通だよ。普通の水着」
「若葉の普通って?」
「普通の、ビキニ?」
 みんな「ダイエットしなきゃ」「腹筋しよう」と、ビキニを着るような会話をしていたので、ビキニは普通だと思った。
「ビキニ!?」
 リョウは急に声を上げて「だめだめ!」と反対をする。普段からリョウは服装にうるさい。 肌を露出するなと、高校時代は特に注意されてきた。そういうこともあって今回も予想は付いていた。 勝手に選んで、内緒で行ってしまえばよかったのかもしれないけれど秘密にしておくのは罪悪感があった。

 リョウはテーブルにあったタブレットを起動し、色々と検索をする。
「こういうのならまだ許す」
 探し当ていた物を若葉に見せた。
 それはタンキニと呼ばれているもので、小中学生が着そうなデザインだった。
「子どもっぽいよ」
 今度は若葉が検索をし、気に入ったデザインを探す。エスニック柄で大人っぽく、 ビキニだけどこれならワンピースも付いている。
「これは?」
 見せた瞬間、即答で「だめ!」と返ってきた。
 その後も「これは?」「だめ」の繰り返しが続く。

「もういいよ。行くの、やめる」
 若葉は自分のバッグを手にし玄関から飛び出した。別にここまでして行きたいと思えない。 新しく出来た友達と初めての遠出を楽しみにしていたけれど、これでは楽しめない。
 マンションから外へ出ると、太陽の日差しがとても眩しく感じ、そして肌をジリジリと照りつける。
 ――夏、なのに……。
 暑いのは苦手だけど、本当はリョウともパラソルの下でのんびりとしたい。でもやっぱり友達とも遊びたい。 そう思うのは勝手なのだろうか……。若葉は歩きながら考える。
 時々、追いかけてきてくれないか振り返ったけれど、リョウの姿はなかった。
 暑さなのか、さっきのことで苛立っていたのか、頭がクラクラし出し眩暈を感じる。

 なんとか駅に着くと、ロータリーに見慣れた車が。リョウの車だ。
 若葉は嬉しい気持ちを押し殺し、気付かないフリをして駅舎に入ろうとした。すると後ろから首筋にヒヤっとした物が。

「キャッ」
 すぐさま振り返るとリョウがペットボトルの水を持っていた。
「何?」
 若葉はリョウが来てくれたことが嬉しいのに、素直な返事ができない。
 リョウは冷たい水を渡して、車に乗るように背中を押した。


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2012-07-08
2013-09-20 お題から移動・改稿



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