63、卒業・2


 終業チャイムがなっても、クラス全員で写真を撮ったり、一人ずつ担任であるリョウと撮った。
 それぞれ別れを惜しみながらも、少しずつ教室にいる人数が減る。

 愛果はこのあと椎名の家で会うことになっていて、若葉は彼女を校門で見送った。そして再び校舎に戻り、一人で歩く。

 泣いている若葉にリョウがタオルを渡した場所。二人で声を潜め話した教官室。そして保健室に化学室……。 この学校には二人の思い出が詰まっている。もちろんたくさんの友達との思い出も。
 すべて大切に胸にしまおう。もう二度と戻れない日々を。


 校舎は次第に人影がなくなり静まり返る。
 若葉は教室に戻って自分の席に着いた。実は、前の日にリョウから「教室で待っていて」と言われたからだ。

 しばらくすると廊下を走る足音が近付いてくる。
 聞きなれた教室の扉の開く音が、いつもより静かに響く。

「遅くなってごめん」
「先生!」
 若葉は、ガタッと椅子から立ち上がり、両手を広げるリョウに抱きついた。
「卒業おめでとう」
「ありがとう」
「この日が待ち遠しかった。やっとだな」
「うん」
 しばらく二人は抱き合う。
 リョウはフォーマルスーツから、いつもの見慣れたスーツに戻っていた。
「この教室で先生といっぱい思い出ができたね」
「そうだな。最初はなんで俺は若葉の先生なんだろうって自分を責めたこともあったけど、今はもういい思い出だ」
 リョウは教室を見渡し、隠れるように若葉と一緒に窓際の床に座った。
「私は先生の生徒でよかった。好きになって本当によかった。先生……」
「ん?」
「ありがとう」
 若葉がリョウの頬にキスをし、彼は少し照れて頷いた。

「ここを出れば、先生と生徒じゃないね」
 繋いでいたリョウの手を、もう一方の手で包んだ。

「先生のチョークを持つ手、いつも見ていたよ。 授業中、黒板に向かう先生の広い背中とか、教科書を片手で持っている手とかも大好きだった。 教室に響く声もすごく好きだったなぁ。 早く“先生の生徒”卒業したいと思っていたけど、もうちょっと先生の教師姿、見ていたかったな」

 そう言った若葉に、リョウは照れ隠しのように彼女の髪をわしゃわしゃと撫でる
「じゃあ、でっかい黒板を家の壁にかけて、学校ごっこでもする?」
「する!」
「俺は嫌だー」
 二人はじゃれ合った。
 このあと家族との卒業祝いにリョウも招かれていて、若葉は誰にも見られないように学校を出て、足早に家へ帰る。

 卒業したからと言って、すぐに堂々と付き合うことはできない。
 リョウはこれからもこの学校の教師だ。四月からは新しい生徒が入学し、もちろん受け持つクラスの生徒も変わる。
 きっとリョウを好きになる生徒も現れるかもしれない。それでも若葉はリョウを信じている。
 リョウは羽ばたいていく若葉を見守りながら、変わらず愛し続ける。


 二人はこの学校で出逢い、秘密の恋をだいじに育んできた。


 Happy end...


最後までお読み下さり、ありがとうございました。
本編はこれで完結です。
次話は、卒業祝いのお話から「続編」として続きます。



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2007-02-07
2012-07-05 大幅修正
2013-09-20 改稿







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