23、露見


「この前、隼人が部活の休みが少ないって文句言っていたよ」
「それは俺に言うな。椎名が日程組んでるんだから。俺だってもう少し休みがほしい。あ、でも最後の日曜日休みになったよ」
「本当!?」
「夏休みの課題が終わってないっていうやつが多くてさ」
「じゃあ、会える……?」
 断られることを覚悟しつつも、恐る恐る聞いた。
「んー……、いいよ。どこか行く?」
「行くー」
 若葉は真夏のヒマワリのような表情を浮かべた。
「その前に体調万全にしきゃな」
「治らなくても行くよ」
「倒れても知らないぞ」
 それからどこへ行こうか話し、地元では学校の誰かに会いそうだからと、少し遠くの涼しい場所へ行くことになった。


「はい、到着」
 リョウは後部座席から若葉の荷物を取り、助手席のドアを開ける。
「どう? 大丈夫そう?」
 散々元気よく会話していたけれど、立ちくらみされてはいけないし、高さがある車のため、リョウは手を差し出した。
「あ、ありがとうゴザイマス」
 急にしおらしくなった若葉にリョウは柔らかな笑みを浮かべ、 彼女の額に手を当てて熱を持っていないか確かめていると、玄関のドアが開く。

「若葉……?」
 若葉の母親、美智子(みちこ)が声を掛け、続ける。
「なんなのその格好。え? どうして先生がうちに?」

 リョウは突然の対面に、「いつもお世話になっております。 実は自分の監督不行き届きで、体調を崩してしまって……」と若葉が日射病のような症状を起こしたことを説明する。
「ご心配おかけしました。あ、先生、せっかくなので上がって下さい」
「すぐ部活の指導に戻らないといけないんです」
「そうですか。……でしたらお仕事の後、うちにもう一度来ていただけませんか?」
 美智子の言葉に、若葉とリョウは目を合わせ、青ざめた表情を浮かべる。
「おっ、お母さん。先生も忙しいし、無理言っちゃだめだって」
 若葉はリョウを守らねばと必死になったが、リョウは「わかりました」と答えた。

 いい機会だった。親にこそこそ付き合うのは決して良いことではないし、 話したからと言って認められるはずもない。けれど今日二人でいる所を見られ、真剣に思っていることは伝えたい。 もしも今は許されなくても、せめて卒業してからの交際を考えてほしかった。

 リョウは学校へ戻り、何もなかったかのように部活指導をした。 シャワーを浴びた後は、ワイシャツに着替えた。夏休み中は校内でもポロシャツなどのラフな服装をしているが、 いつも何かあっても対応できるようにロッカーにはスーツを用意してある。まさかこんな事に役立つとは思ってもいなかった。
 そんなリョウを見て、椎名は「どうした?」と聞く。
「“彼女”の家に行ってくる」
「これはまた突然だな」
 椎名も愛果と付き合い、色々あったのでリョウの気持ちはよく解る。
 職員室に行き昼食をさっと済ませて、やらなければいけないことを能率的に進め、夕方若葉の家へ向かった。


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2006-02-10
2012-07-05 大幅修正
2013-09-20 改稿







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