21、テニス


 部室の入り口で隼人に見張ってもらい、若葉は着替えた。
「うぉー。ひさしぶりに見た、若葉のスコート姿」
「そんな目で見ていると、私が勝っちゃうよ」
 学校のジャージはダサいし、私服には運動できるようなものを持っておらず、 仕方なしに中学生時代のウエアを持ってきた。身体が成長して若干きつくなっているが、仕方がない。
 二人はテニスコートに行き、軽くウォーミングアップをした。

「若葉、中学以来?」
「そうだよ」
「フォーム、全然いいじゃん」
 久しぶりのテニスは思うようには打てなかったけれど本当に楽しかった。
 日差しも強くなってきたので、そろそろこれで終わりにしようと隼人がサーブを出す。
「あっ」
 若葉が打てなかった球が遠くへ転がっていった。そして隼人の目線を見て、振り返る。リョウだ。

「おはよう。いいから続けて」
「でも……」
「俺にも見せてよ」
 終わりにしようと思っていたのに、リョウがそう言うのでもう少しだけと続ける。
 その姿をリョウは目で追った。しばらくするとリョウは若葉の横に並ぶ。
「お前、テニス部だったの?」
 そう言いながら、先生は隼人が打った球を返す。
「うん」
「結構うまいじゃん」
「いえいえ」
「隼人、お前を鍛えてやるー!」
 リョウは隼人に叫んで、スマッシュを打った。隼人もすかさず、それを返す。 そして若葉は隼人のいる逆のラインのギリギリを狙う。隼人はそれを打てなかった。
「やったー」
 若葉とリョウはハイタッチをした。
「二対一じゃキツイって」
 隼人は言い訳をする。
「だったら交代」
 今度はリョウが向こうのコートへ行き、若葉と隼人対リョウになった。
 リョウがサーブを出し、綺麗なフォームに若葉は思わず見惚れる。 しかし若葉たち二人でもリョウは余裕で球を返してくる。
 若葉は日ごろの運動不足と暑さで降参してしまった。

「隼人、お前全然ダメ! だからこの前の試合、優勝できなかったんだって」
「ううっ、俺の気にしていたことを」
「ちょ、ちょっと……、先生すごすぎるんだけど何で?」
 息切れをしながら若葉は汗をぬぐう。
「何でって、テニス部の副顧問だから」
「そうじゃなくって」
「若葉、こちらの先生は、昔全国大会に出場したことがあるらしいです……」
 隼人がリョウの過去の栄光を教えた。
「本当!?」
「まぁ、自慢することでもないんだけどね」
 リョウはそうは言いながらも鼻高々とした表情を冗談交じりに見せた。
「それより、早坂結構センスあるけど、なんでテニス部に入らないんだ?」
「だって、帰り遅くなるの嫌だもん」
 本当はそれだけではなく体調のことが一番の理由だが、心配させたくないのでそう答えた。
「お前の言いそうなことだ。軽く打ち合いしよう」
「えー!?」
 リョウは若葉の腕を引っ張り、強引にコートに入れた。
「ほら、ボーっとしてないで行くよ」
 少しゆっくり目にサーブが入る。
 リョウはかなり手加減をしラリーが続く。
 久しぶりのテニスで、しかもリョウとのテニスはもっと楽しい。 身体のことを忘れてしばらく続けていると、テニス部員たちがコートを囲っていたことに気付く。
「これでおしまいっ!」
 リョウはわざと若葉の真横めがけて、スマッシュを打った。
「キャッ」
 若葉は思わず避ける。そして周りから「うぉぉぉ」という声とともに拍手がわいた。 リョウへの拍手ではなく、若葉のスコートがフワッとなったからである。


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2006-02-10
2012-07-05 大幅修正
2013-09-20 改稿







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