20、男友達


 相変わらず若葉は暇を持て余し、この日はアルバイトにも行かずに一日中家でゴロゴロしていた。 大量にあった課題もすべて終わらせているし、午前中は自主勉強もしている。
 夕方、見かねた母が「暇ならお醤油買って来て」と若葉に頼む。
「遠くなるけど、コンビニじゃなくてスーパーで買ってね」
 若葉の行動を読み取った母は玄関で忠告した。
 昼間よりは若干やわらいでいるが、それでも暑さは変わらないので、母の日傘を借りる。

「あれ? 若葉?」
 スーパーで醤油を買い、とぼとぼ歩いていると同じクラスの隼人(はやと)に声を掛けられた。 隼人とは同じ中学校で、偶然同じ高校に上がり、中学三年からずっと同じクラスで仲も良い。 そして彼はテニス部所属。そう、リョウが顧問している男子テニス部の部員だった。

「部活の帰り?」
「うん、そう。今日は練習試合で他校に行っていた」
「また一段と日に焼けたね」
「だろ? まったくうちの顧問、全然休みくれないから嫌になるよ。それにしても若葉は全然焼けてないな」
 隼人は若葉の細く白い腕と比べて笑う。若葉は今年の夏どこにも行っていないので、肌はほとんど焼けていない。

「若葉は?」
「え?」
「テニス、やらないの?」
「私は中学で卒業」
 若葉は、実は中学の頃テニス部に所属していた。しかし三年生の夏に猛暑で倒れてしまい、最後の試合にも出ることができず、 それ以来ラケットは握っていない。もちろんテニスは今でも好きだ。高校がもし室内だったらと思ったが、 さすがの私立でもそうではなく、部活動の強制はないので帰宅部でいる。

「久しぶりにテニスやろうよ」
「久しぶりにかー……」
「若葉、ラケットとかまだある?」
「あるある。シューズもウエアも捨ててないよ」
「じゃあ、明日、学校来いよ」
「でも私、炎天下苦手なんだよね」
「明日は八時半から部活が始まるから、その前だったらどう? 朝早いうちだったらそこまで暑くないとは思うし。 女子は試合でいないから、別に気にならないだろ?」
 隼人の誘いに、家にいても暇だし、久しぶりに体を動かすのもいいかと思った。
「うん。いいよ」
「じゃあ、明日迎えに行く」
 若葉は隼人に家の前まで送ってもらった。

 家に帰り、クローゼットからラケットと、ウエアを出した。
「懐かしいな」
 中学の頃、二人は本当にテニスが好きで、部活がない日はよく隼人の家の広い駐車場で打ち合いしていた。


     * * *


 翌朝早く、隼人は約束通りに若葉を家まで迎えに行き、二人は一緒に学校に行った。

「そういえば、夏休み入ってすぐの練習試合、愛果ちゃんと見に来ていたよね」
「あれね。愛果に誘われてね」
 すいている電車に二人並んで座る。
「そうなんだ」
「一年生の頃もよく二人で見に来ていたよね」
「うんうん、あれも愛果に誘われてね」
「愛果ちゃん、うちの部員の中に彼氏か好きなやついるの?」
 隼人の何気ない問いに、若葉は言葉を詰まらせた。部員の中にはいないけど、顧問に……。 ちなみに私はキミの副顧問と……と心の中で告白をするものの、仲の良い隼人にもそれだけは絶対に言えない。
「いないよ。そういうのじゃなくて、テニスを見るのが好きみたい」
「へー、珍しいね」
「そうだね」
 若葉は必死に笑ってごまかした。


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2006-02-10
2012-07-05 大幅修正
2013-09-20 改稿







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