17、公園


「ちょっと時間ある? 遅くなっても平気?」
「うん」
 車は公園の駐車場に入り、端の方に停める。

「この間、お前が俺に言ったこと本気?」
 リョウの言葉に、あの告白のことだとすぐにピンときた。
「はい。結構本気……でした」
「そう。憧れとか、大人への興味とかじゃなくて?」
 リョウは真剣な顔をして若葉に問いかける。
「うん。初めは自分でもよくわからなくて……。けれど先生に興味がないフリをしたり、 冷めた態度を取っていたのは好きなのを隠しておきたかったからだって気付いたの。 憧れだけだったらこんなに苦しくならない……」
 涙が出ないように、ぎゅっと目を閉じた。
「じゃあ、俺の好きなところ述べて」
「はあ?」
 閉じた瞳は一瞬で見開く。
 振っておいて、何を聞き出そうとしているのだろうと、首をかしげた。
(でも待って……。先生は私の話ちゃんと聞いてくれようとしているんだ)

「はい、早く答えて」
 リョウの催促に若葉は答える。
「んー……。まずはかっこいいところ? あ、ちなみに一番かっこいいなと思っているのは白衣姿かなぁ。 でもスーツも素敵だし、ジャージ姿も好きなんだけどね」
 いきなり変な答えを言ってしまったと、若葉は口を押えて焦る。
 リョウはそんな彼女が可愛いのと可笑しいのでクスクス笑う。
「それから?」
「私が困っている時、いつも先生が助けてくれるから」
「それから?」
「それから、先生が笑ってくれるとすっごく嬉しくて、私なんてただの生徒だし、 年も離れているんだけど、だけど先生のこと見ると守ってあげたくなっちゃうって言うか、ぎゅうってしたくなっちゃって」
 若葉はそう答えたあと「……わけわかんないよね」と付け加えた。
「そっか。そんなこと初めて言われた」
 リョウはそう言い、少し黙り込む。
 八つも年下の女の子に、しかも生徒にそんな風に思われるなんて考えてもなかった。 けれど彼女の気持ちは本物だということを確信した。この歳でこんな気持ちになったのは初めてだった。

 そして、ついに自分の気持ちを伝える覚悟を決める。
「俺もお前のこと好きだよ」
 リョウの覚悟は、若葉にはさらりと言ったように聞こえた。
「ちょっ、ちょっと待って。今、何て言ったの?」
「俺はお前のことが好きだったんだよ」
 二度目の告白に対しても理解できない。
「なんで? 先生、この間“ごめん”って言ったじゃん」
 若葉の指摘に、リョウはため息をつく。
「正直言うと本当はお前のこと、特別に見てしまっていたんだ。 だけど、好かれてもない生徒をこんな風に思うのは気持ち悪いと思っていたし、 一応気持ちを抑えていたんだよ。だからあの日、お前に言われたときはかなり驚いた。 でも俺は椎名みたいに要領よくないし、今、お前の気持ちに応えても幸せにしてあげる自信がなかったんだ。 だからあの場ではああ言うことしかできなかった。お前が卒業して、 いつか偶然会う時が来たら自分の気持ちを言おうと思っていたんだけど、やっぱりさっきみたいな所を見てしまったら、 どうしてもすぐにでも自分の傍に置いておきたくなった」
 リョウはしっかりと彼女を見つめて言う。
 若葉は嬉しくて思わずリョウの腕に抱きついた。体に抱き付きたかったけれど、運転席との間のハンドブレーキが邪魔だった。
「ベンチシートの車にしておけばよかった」
 リョウは微笑み、若葉の頭を寄せて腕に包み込む。今度は彼女だけのために、愛しいその名前を口にした。
「若葉……」
 若葉の耳に優しい声が掛かり、嬉しくて涙が零れ落ちる。
 しかし、こんなロマンチックなシーンでも若葉の鼻水は出てくる。 鼻をすする音に気付いたリョウは若葉の顔を見て、笑いながらティッシュを差し出した。


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2006-02-10
2012-07-05 大幅修正
2013-09-20 改稿







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