12、号泣


 四人で蟹パーティーをした翌日、若葉は家に帰ってからずっと部屋に閉じこもり、リョウのことばかり考えていた。
 そんな中、愛果から「聞きたいことあるの」とメールがあり、会うことになった。

 若葉の家の近くまで愛果が来てくれて、二人は公園の日陰にあるベンチに座る。
「あの日、何かあった? 若葉の目真っ赤で腫れていたから心配で……」
「愛果……」
 若葉は堰を切ったように涙があふれ出て、声を上げて泣いた。 幸いセミの鳴き声のほうが勝り、周りに聞こえることはなかった。 感情がおさまるまで泣き、少しずつぽつりぽつり心にあった気持ちを話し出した。


「そうだったんだ」
「言わなきゃよかったな。なんで言っちゃったんだろう」
「本当に好きだったから、でしょ?」
 愛果は優しく若葉の泣き顔を覗き込み、背中をさする。
「うん……」
「リョウ先生はああ見えて真面目だからね。 椎名先生のことも最初はいいふうに言ってなかったみたいだし……。あ、でも私は応援するよ!」
 愛果の言葉は心から若葉のことを思ってのことだった。 リョウと若葉を近くで見た彼女には、決して若葉の恋の可能性はゼロではないと感じる。

「ありがとう。でももうやめておこうかな。これ以上傷つく前に……」
「それで本当にいいの?」
「うん。それに別にそこまで好きってわけじゃないし。 なんとなく言っちゃっただけなんだよ。ほら、愛果たちが羨ましくて」
 若葉は笑ってごまかし、愛果に嘘を再びついた。 こんなに胸が苦しいほど誰かを好きになったのはリョウが初めてなのに、友達にも本音で相談することができない。


 二人は何か別のことをしていたほうが気がまぎれるだろうと、その足で一緒にアルバイトへ行った。

「ねーねー、愛果ちゃんと若葉ちゃん」
 休憩中、一緒にバイトをしているマリが二人に声を掛ける。
「来週の土曜日、合コンがあるんだけど来ない?」
「合コン?」
「そう。同じ大学の男の子たちがどうしてもって言うんだけど……」
 マリは二十歳を迎えたが、年上ぶった感じもないし、 童顔に可愛らしい声も相まって、若葉たちと同い年と言われてもおかしくはない。

「私は行けないけど、若葉は?」
 愛果は若葉が合コンに行けば、リョウのことがやっぱり好きだと気付くかもしれない。 逆にもっと幸せになれる人と巡り合うかもしれないと思った。
しかし若葉は「やめておこうかな」と断ろうとしている。
「若葉、気晴らしに、気楽に行ってみれば?」
「見晴らしに、気楽にか……」
「それでも気持ちが晴れないなら、諦めるのやめればいいんじゃない?」
「うん。そうだね」


     * * *


 合コン当日、若葉は電車で待ち合わせの場所へ行くと、すでにマリとその友人は到着していた。
「若葉ちゃん、可愛いし、大人っぽい。そのワンピよく似合うよ」
「ありがとう。それより、私のこと高校生って言ってある?」
「言ってないけどどうしよう? 私の高校の同級生にしておこうか」
「お願い!」
 周りはみんな大学生だったので、自分だけ女子高生だと知られるのは恥ずかしかった。

 合コン相手の男性陣も集まり、総勢十名でぞろぞろと店まで歩く。
 店内は照明が薄暗く、若葉は大人っぽいお店だなあとキョロキョロ見渡してしまった。
 若葉以外は全員二十歳だと言う。
(みんなまだ若いな。そんな私はもっと若いんだけど。もっとハタチって大人のイメージがあったのにな……)


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2006-02-10
2012-07-05 大幅修正
2013-09-20 改稿







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