12 暴走 〜敦士side


やっと想いが重なった花火大会の日以来、二人きりになる度にキスをした。
まるで互いの気持ちを伝え合うように。

正直、罪悪感がないわけではなかった。
一つ屋根の下に彼女の祖父がいる。
もし見つかったら、ここを追い出されるかもしれない。
二度とほのかに会えなくなるかもしれない。

それでも止められなかった。

誕生日プレゼントを受け取った時「いいの?」って聞いてきた顔。
あの日の浴衣姿。
キスをする時、一瞬構える所。
彼女のすべてが愛おしい。
こんな気持ちになったのは生まれて初めてだった。


それから数日後、思いがけないことが起こった。
朝起きて1階へ降りると、すでに起きていたほのかは朝食を取っていた。

「敦士も起きたか。ちょっと話があるから座りなさい」
爺さんにそう言われ、ダイニングチェアーに腰掛けた。

もしかして…。
ほのかとのことがバレたのかもしれない。
嫌な予感が走った。


けれど全く違う話だった。

「実は知り合いが腰を痛めて、盆明けから東高校の空手部の指導を頼まれた。
 そのうち2日間は合宿で留守にする。
 で、二人には悪いが家のことをやっといてくれないか」

ほのかから前に聞いた話だと、以前は毎日のように教室があったらしい。
それが今は週に2回しか教室を開いていない。
教室は夜だから、それまで東高の指導に当たるという。
ほのか自身は迷っているようだけど、しばらく空手はしないみたいだし
俺も試験が受かったばかりで、とりあえずは稽古は休みということになった。


「なんかラッキーだね」
爺さんが外に出かけた瞬間
リビングで課題の問題集を開きながら、ほのかが言った。

「そうだ。遊園地行かね?」
「遊園地?」
下を向いていた顔をパッと上げた。
「実は西田にチケットもらってさ」
「西田くん…?」
また下を向く ほのか。
西田って名前を出したのがいけなかったのかな。
「行こう。合宿で爺さんがいない日、朝から夕方まで遊ぼう」
あいつのことは気にしないでほしかった。
だからめいっぱい明るく言ってやった。
すると「うん」と嬉しそうに、深く頷いた。


ほのかの嬉しそうな顔を見るだけで幸せだった。
それなのに、どうしてこんなにも欲が深くなるんだろう。

一つ事が進むと、もっと前に進みたくなる。

もっと、もっと
触れたい、触れたい、触れたい――。


いつものように深夜の縁側で静かなキスを交わしていた。
彼女の腰の位置で我慢していた手を
Tシャツの中にゆっくり手を入れ、滑らかな背中に這わせていった。
ノーブラだ…。
そして背中からわき腹へ。
柔らかな膨らみへと自分の手が本能のまま動いていく。

「んっ…。や…やめて!!」

俺はほのかに突き飛ばされた。
彼女はそのまま階段を駆け上がって行った。

しばらく動けなかった。
自分が情けない。
暴走にも程がある。

台所に行き、グラスに勢いよく入れた水を一気に飲み干した。
そして蛇口の下に頭を入れ、馬鹿な頭を冷やした。

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2006-08-01



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